青春の蒼いカケラ
 気付いたら彼女は僕の横に座っていた。
 触れ合う袖に、どことなく懐かしい温もりを感じる。
「近所ってどの辺だい?」
「なおとさんこそ、この近所なんですか?」
「おおよ。警察署の真ん前にあるアパートだ」
「あら奇遇ね。私は警察署の裏よ」
「ははは……」
 二人して苦笑いを浮かべ、その日は彼女も用事があるとかで、そそくさと帰ってしまった。だが抜かりはない。電話番号だけはしっかり交換している。また機会があれば連絡のひとつも寄越してくるだろう。何せ『ご近所』なのだから。
 福祉課の規則とかで、バイクは禁止されている。だが僕は連中に黙ってスクーターを購入した。中古だって何だっていい。歩いて病院に行く怠さからすれば『動いてさえくれれば』いいのだ。
 病院に直接行っては福祉課にバレる。そこで僕は病院から少し離れた場所に停めて、歩いて通うのだが、その姿を、同じ病院に通っているビトウさんに、しっかり見られた。
 いつものように病院で診察を済ませ、出てきた僕に、ビトウさんが声を掛けてきた。他にも数人集まっている。ビトウさんは元ヤクザの若頭だった人だ。
「おい、なおと。お前、ここからグラウンドを一周して病院に戻ってくるのに、どれくらい掛かる?」
「えっと……」
 その先を答えようとした僕に『バイクで、な』と、ビトウさんが耳打ちした。どうやら他の連中は、僕がバイクで通院している事を知らないらしい。
 僕は『七分くらい』と、ビトウさんの耳元で囁いた。
 ビトウさん曰く『謝礼は出すから、やってくれ』だと。
「解りました」
 僕は、そう元気に返事を返し、言われた通り、七分で戻ってきた。今回は急いで戻ってこなければならないので、病院の前にスクーターで横付けだ。
 ビトウさんは『謝礼だ』と言って、一万円札を僕の掌に握らせ、笑いながら院内に消えて行った。どうやら僕が何分で戻ってくるのか、連中
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