青春の蒼いカケラ
 観察結果に少し回復の傾向が診られるとかで、大部屋に移る事になったのだ。これでここの“広大な自由”が少しだけ僕のものになる。但し、まだ閉鎖病棟なので、テニスコートも畑も僕とは無縁の存在だ。
 三か月我慢する事で、僕はやっとの思いで退院する事が出来た。結局、福祉課のお世話に逆戻りだ。僕が入院している間に、ハルオちゃんが石神井のアパートを引き払っておいてくれたので、今度は通院に便利な八幡山近辺で条件のいいアパートを探す事にした。ケースワーカーのホンマさんと一緒に捜し歩いて、上北沢に風呂なし二間の条件のいい部屋を見付ける事が出来た。いつものようにハルオちゃんに保証人を頼む。彼は快く承諾してくれた。ハルオちゃんが預かっていてくれた荷物を引き取り、引っ越し先に運び込む。ハルオちゃんが手伝ってくれたお蔭で、思ったより早く片付ける事が出来た。
 これで今日からここが僕の城だ。一分も歩けば銭湯もある。これなら風呂なしだって問題ない。窓から街並みを見下ろすと、夕方の活気に満ち溢れた狭い路地は、夕飯の買い出しで忙しなく歩き回る人の波でごった返していた。


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