Addict -中毒-


義母の病室で見舞いのリンゴの皮を剥いているときだった。


ヴー…


あたしのバッグの中で、携帯の振動する音が静かな病室に響いた。


慌ててバッグの中から携帯を取り出す私を見て、


「病院では電源を切っておくのが常識じゃないの?」


と、義母が目を釣りあがらせる。


今はちょっとでも私に落ち度を見つけて、それを攻めることに生きがいを感じているみたいだ。


「すみません。ちょっと、失礼します」


しまった…いつもは病院に入る時点で電源を切るのに、今日に限ってうっかりしていた。


確認するつもりで、病室の外の通話OKの場所まで移動する。


携帯の画面を見て、私は目を開いた。


“不在着信:恵比寿バー”


電話があったのはほんの2分ほど前。私は慌てて折り返しの電話をするため通話ボタンを押した。


こんな……


こんなにすぐ折電するなんて、まるで啓人からの連絡を待ち望んでたみたいじゃない。


一週間音沙汰なしの酷い男に、何ですぐ掛ける必要があるのよ。


こんなの都合の良い女の代名詞じゃない。


そんなことを思っていたけど、私は啓人に電話を掛けている。


だって一週間何も連絡なかったもの。


今掛けないと、この先いつ繋がるか分からないもの。





こんなにも複雑に絡み合う気持ちは―――はじめてだった。




複雑だけど、答えは決まっている。






“声を聞きたい”






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