Addict -中毒-
どれぐらいときが流れただろう。
新たに燈したキャンドルもドロリと蝋が溶けて、蜀台に新たな形を残す。
その蝋は以前は形あるのもだった。綺麗な装飾が施されて凝った創りのキャンドルだったのに、溶けてしまえばそれがどうゆう形だったのか、
思い出すのが何と難しいこと―――
夫婦の関係もそう。
結婚するときは永遠の愛を誓っても、あのとき抱いた気持ちは本物でもほんの小さなすれ違いはやがて大きな歪へと変化していく。
やがては私たちは同じ空間でも目を合わすことなく、大切なことを決めるときでさえ
視線が絡み合うことがなくなってしまったのだ。
「ただ、離婚するにしてももう少し待って欲しい。入院中の母を心配させたくないんだ。
自分勝手でごめん」
淡々と、と言うよりもむしろ機械的に言って蒼介は立ち上がった。
「ごめん。今日はさすがに寝室で眠る気になれない。僕は客室を使うよ」
蒼介は私の返事を聞かずして、ダイニングルームを出て行った。
ドロリ、と蝋が溶けてまた一つ新しい形を作っていく。
元の綺麗な形ではなく、それは異形で不気味な何かを作り出していた。
勝手なのは私の方―――…あなたは謝ることなんて何一つないのに。
ポーン…
不快な和音が私の脳に響き渡る。
それは私の手の中に握られていた、蒼介から貰ったペンダントが鳴らしている
音に違いなかった。