Addict -中毒-



年末は慌しく過ごした。


家の大掃除を一人でして、毎日日課のように義母の入院している病院に見舞った。


義母は骨折だけだったけれど入院中に風邪をこじらせてしまい、いっときは肺炎にまで発展してしまった。


年齢も年齢のせいか、精密検査などもして退院は見送られることになったのだ。


家に帰りたいとごねる母親を前に、


「きちんと治してからがいいよ。母さんももう若くはないんだ」


と蒼介が宥めて、納得させるまでが大変ではあった。





私が何らかの返事を蒼介にする期間が―――また延びた。





それでも年が明けて、容態が安泰していたのもあってか、義母はさすがに元旦だけは外出許可が出され、蒼介のお兄様のお宅に正月は全員揃うことができた。




私も蒼介ももちろん揃って出席。



私たち夫婦の間はすっかり冷え切っていて『離婚』と言う文字が浮上しているのに、互いにその複雑な感情を押し隠してひたすらに笑顔を取り繕った。


ぎこちない夫婦間を隠すため、私はお兄さん夫婦やお義母さんににひたすら気を配り、


興味のない話でも大いに聞き入った振りをしてみせた。






仮面夫婦―――とはこのことを言うのだろうか。







蒼介のお兄さん夫婦には子供が一人。小学五年生の娘が居る。


はにかみやで人見知りだが、なかなか可愛らしい顔立ちをした子である。


どこをどう気に入られたのか分からないが、私は随分とその子に懐かれた。その子のお陰で、私たち夫婦のぎこちない雰囲気が緩和されたのかもしれない。


「今ね。エチュードの連弾を練習してるの。紫利おねぇさん、一緒に弾いてよ」


とピアノの連弾をせがまれて、私は笑顔で頷いた。


「紫利さん、娘の相手は適当でいいよ」


お義兄さんが笑う。


「そうよ。お着物でいらっしゃるし、娘が汚したら大変」


お義姉さんは少し心配そうだ。


「ねぇねぇ早くぅ」と可愛い姪っ子。


まるで絵に描いたような家族だ―――






私たちはとは正反対の―――






温かくて、優しい。






だけどふっと疑問に思うのだ。




私と蒼介に子供が居たら―――この問題はどうなっていたのだろう―――と



考えたって仕方ないし、そもそも私が裏切った事実は例え子供が居ようと、


消せるわけがないのだ。






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