だからキスして。
「キミかい?あの電話の相手は」

そう声をかけられて、あたしは振り返った。

見ると30歳前半くらいの、いかにも営業マンって感じのスーツを着た男が立っていた。

「そうよ!あたし。とりあえずお話を聞きましょうか?」

「あ、あぁ…」

あたしはいつものように彼を『オフィス』へと誘った。

あたしの仕事場は基本的にこの小さなオフィス。中は壁やデスクも白で統一し、他のイメージを作らない。

《無》のスペース。

飾り気も何もない。
それが重要だった。

「そちらへどうぞ」

彼を中に案内し椅子に座らせた。
彼は辺りを警戒するように見回していた。

そんな彼の様子なんかお構いなしに、あたしはビジネスを進める。

「貴方の話しを聞かせて?」

彼は話しずらそうに下を向き、足元を見ながら呟いた。

「…どうしても…彼女が僕に振り向いてくれないんだ」

「片想いなの?」

「'好きだ'と何度言っても拒まれる。でも彼女が心配で、僕は毎日彼女の仕事帰り、コッソリと後ろを歩いてるんだ」

「彼女は知ってるの?」

「知ってる…何度も'やめてくれ'って言われた。だけど心配でやめられないんだ。そしたら昨日…僕は警察に呼び出されたよ」
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