だからキスして。
若い頃のような
激しさもない。かと言って十代のような初々しさもない。

それでも何十年ぶりかに夫としたキスは
なんだか切なかった。

もう二度と、こんな事はしないだろうと思っていたから…自分でも驚いている。

心臓がドキドキしてるわ…

夫にとっても
私にとっても

人生、最後の口づけ。

切なくて
哀しくて

ほろ苦くて

ちょっと甘いキス



夫を選んで…良かったのかもしれないわ。

私は最後まで、この人に愛されていたのね

私達がキスしてたなんて子供達が知ったら…きっと呆れるわね。

たった十数秒のキスを終えると
子供達と孫達が慌てて病室に入ってきた。

「おじいちゃんは!?」

「さっき起き…」

そう言って夫を見ると、夫は意識を失っていた。すぐに機械が異常を知らせるブザーを鳴らしだした。

「父さん!」

息子が慌てて先生を呼ぶ。

「おじいちゃん、おじいちゃん…」

孫達が何度も夫を呼ぶ。私は呆然としながら、夫と子供達と孫達を見ているだけだった。

──十数分後

夫は皆が見守る中、静かに息を引き取った。



ほんの少し前の
奇跡の時間

夫は私の中に
一生忘れられないキスの感触だけを遺した。
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