東の神殿と歌姫
「へぇ、一人旅なんだ。どこまで?」
偶然にも、旅芸人一座のキゼナ一行と街中の店で会い、しかも相席での食事。フィルイは心密かに神に感謝する
その相席での食事中、当たり障りない世間話から、シャスに着く前に見掛けた事をフィルイが口にすれば
フィルイの真向かいに座る、一座の看板であろう舞姫アーリが、まるで値踏みする様な視線をフィルイに向け問うてくる
(確かに美人だな)
そう思いながらも、アーリの視線を不思議に感じ、彼女の青い瞳を見つめ返しながら「東の神殿まで」とフィルイが答えると
その場に居る一座の人々が息を飲む気配がした
「東…って…クナカーナ神殿だよ、ね」
確認してきたのはアーリの横に座る黒髪の少女、歌姫のルゥイだ
やはり綺麗な声。その声で話し掛けられ、フィルイの心臓がどきりと跳ねる
緑の瞳も若葉の様に煌めいて見えて…
コホン、と空咳を一つ
逸る心を宥めつつ、フィルイはにこやかに頷く
「東…」
「神殿だ」
「どうする?」
何やら近くの座席に座る一座の仲間達が、会話を聞いてざわざわと小声で相談している
何だ? と気になってそちらに身を乗りだしかけたフィルイに、アーリが呼び掛ける
「貴女…フィルイって言ったかしら。今日はどうするの?」
「どう…するって?」
「宿よ、まさか泊まらないっての?」
まだ明るく陽もあるが、出立するには少し遅い時間
それに祝いの祭も見たいので、当然、数日間はこの街に泊まるつもりでいた
―― が