坂道
「俺たちに出来ることは、裕美に残された時間を精一杯楽しいものにしてやること。」


まっすぐな目線でそう言う土門に、ケンジは静かに、しかし力強く頷いた。



やがて、ぽつりぽつりと雨のしずくが二人の頬を打ち始めた。


そして、その小さなしずくはやがて大きな雨粒となり、やがて夏の熱い天気雨となった。



グランドの整備をしていた後輩たちは、いっせいに室内練習場に避難していく。


土門も車からバックを取り出すと、それを右手にもって室内練習場へ駆け出した。



その後を、ケンジも雨にうたれながら無言で続いた。



この雨が、全てを洗い流してくれればいいのに。




ケンジは心の底からそう思った。
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