坂道
第十五章 のこりが

学校にて

二人はコンビニエンスストアで弁当とお茶を買うと、学校へ向かった。


そして校舎のある丘を上る途中にある、あの野球グランドの内野スタンドに腰を下ろした。



「すごい日差しだね。」


夏の太陽にを左手で遮りながら、裕美はそう言った。



「木陰に行こうか?」


ケンジはそう言ったが、裕美は大きく首を振った。



「ううん。ここがいいの。」


裕美はそう言うと、気持ちよさそうに両腕を広げて、大きく息を吸い込んだ。



「この場所はね、ケンジくんのいたピッチャーマウンドとブルペンが、一番よく見渡せるところなんだ。」


「そうなのか。」


ケンジはそう返答すると、胸が熱くなった。



裕美はいつも、ケンジのことをこうやって見ていてくれたのだ。



「だからここがいいの。」


裕美はきっぱりとそう言った。



ケンジは青草に腰を下ろしながら、グランドを見つめた。


これが毎日、裕美が見ていた景色なのか。



「ねえ、ケンジくん。」


「何だ?」


ケンジは詰まりそうなのどを気づかれんと、必死に平静を装ってそう尋ね返した。



「私も、ケンジくんがマウンドで見ていた景色が見たい。」


にっこりとしてそう言う裕美の顔を見て、ケンジは迷った。



グランドには部員やOB以外は入れないことになっている。


しかし、今日はお盆で、練習は午前中で終わっており、あたりには誰もいない。



「分かった、行こう。」


「駄目。」


しばらく考えていたケンジが、決心して腰を上げようとしたとき、裕美がそう言って制した。



「ケンジくんはここにいて。マウンドからケンジくんを見たいの。」


「…分かった。」


裕美はケンジの返事ににっこりと微笑むと、スタンドを駆け足で駆け下りて行った。
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