坂道
「実家のお店のお手伝いをした帰りとか…。お母さんがかわいそう…。」


奈央がそう言うと、その両目からは大粒の涙が溢れ、喪服のスカートの上に落ちて小さくはねた。



「泣くなよ、奈央。裕美が心配で、天国にいけないだろう。」


泣きじゃくる奈央に、その向かいに座る土門が優しく声をかける。



しかし、奈央の涙は決して止まることはなかった。



ケンジには奈央のその涙の理由が、痛いほどわかっていた。


いや、そこにいる全員がわかっていた。


全員が必死に涙をこらえていた。



それほど裕美は純粋で優しく、皆に愛される女性であった。


だからこそ彼女をよく知る五人は、その早すぎる死を悔やんでも悔やみきれなかった。
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