帰ってくる場所
2. 花束と桜


「…穂波」

「ん?ほたる、なんか言った?」

絢音ちゃんが髪を結う手を止めて鏡越しに尋ねてきた。

「絢音ちゃん。穂波さんて人、ご近所にいる?」

「穂波?う~ん……どうだろなぁ。田舎いうてもそれなりに人はいるけぇ。気になるならお母さんに聞いてみぃ?だけど、どして?」

絢音ちゃんが首を傾げるのとあたしが首を傾げるのは同じタイミングだった。
あたしだってなぜだか知りたい。別に興味をわくようなことでもないんやけど、ただ……

「あのね、昨日散歩してたら田んぼ道に大きな木を見つけてね」

「あぁ、桜の木やねぇ。誰があんなとこに生やしたんやかわからんけど、四季を村の中心で感じられるけぇ、素敵な木やろ」

桜の木だったのか。
なんの木かすらわからなかったなぁ。

「そこでね、男の人にあったの」

「男?」

「うん。肩くらいの黒髪に体にあってないワイシャツとジーパン履いてた。絢音ちゃんよりも年上だと思う」

あたしが言うと「誰やろうなぁ」と眉を寄せて考えてくれたけど、結局それっぽい人は思いつかなかった。


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