私と彼の秘密の契約
――――


ここだ。
と、案内された塗師君のお家は駅前の見上げる程高いマンションの上層階。


やたら早いエレベーターに乗って、辿り着いたのは、本当に生活できるだけの少ない家具が並んでいるだけのこざっぱりとした部屋だった。


「凄い……こんな部屋住んでるなんて。塗師君てお金持ち?!」


思わず窓に近づいて窓から下を見下ろす。

こんな高い場所から街を見るのなんて初めて!

学校から見るのとまた違う感動がある。



「おい、美咲。」


いつの間にか、塗師君が私の真後ろに立っていた。
びっくりして振り向くと、塗師君が両腕を押さえつけてくる。



「男の一人暮らしの家にのこのこついて来るなんて無防備にも程があるんじゃないか?」


塗師君の目が赤くなり、口元がにやりと笑った形になる。


「ひっ、一人暮らしって……ご、ご両親は?」

「残念ながら、両親とは随分長い事会っていない。さぁ、どうする?」


「どどどどうって………。」


怖い。
なんで?
なんで、こんな事するの?


どうしよう。
逃げなきゃ。



「やっ、やだっ!!離してっ!」

掴まれた腕に力を込めるも、びくともしない。
かなわない。
これが男の子の力なんだ。

華奢に見えるけど、私なんかより数段も力がある。

怖くて、どうにもならなくて、足が震える。


「くくっ。」


喉の奥で殺したような声で塗師君が笑う。


「冗談だよ。何もしない。」


腕が離される。


「まぁ、座れば?飲み物くらい出してやるよ。」


目の色が戻った塗師君は優しく笑う。
言葉使いは乱暴なままだけど。


どうしよう。
信用していいの?

またさっきみたいに力づくで何かされても抵抗できないよ。


でも……先輩を助けなきゃ。


「ねぇっ!塗師君の言う事聞いたら、本当に先輩助けてくれるの?」

「くくっ。そんなにあいつの事、好きなのか?」
かぁっと顔が熱くなる。

「そんなのっ!塗師君に関係ないっ!!」
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