九弦堂のザッハトルテ
少し心が触れ合い
そこに慣れが生まれる
わたしはいつものように
「今日はなにが食べたいですか?」
と尋ねた
だからいつものように
刺身やら冷や麦が来るものとばかり
慣れだ
慣れは怖い
77歳の姑の口から飛び出したのは
「ザッハトルテ」
「はい?」
「ザッハトルテが食べたいね」
「ザッハトルテ…」
口にしたが
なんだか小気味いい響き
「あの、まさか…」
「九弦堂ってところの」
そのまさか
だった…