ラヴァーズセブン
「かなでさん?」

彼は付き合う前も、付き合ったあとも私を呼び捨てにしない。
でも、誰よりもきれいに私の名前を発音してくれる。
私が彼を好きになった理由の一つ。
電話越しに名前を呼ばれて、ただぼんやりとそんなことを思った。

「かなでさんってば!」
「あ、ごめん。飛んでた」

何やってんの、と呆れたようにいう博の声は
疲れているのか、機嫌が悪いのかいつもよりもさらに低い。
彼の声も、好きになった理由の一つ。
心地良い、やさしいテノール。
だからこそ、機嫌の良し悪しが声にでるのを
私は絶対に見逃さない。

「えーと、今日の話だったよね」
「ケーキはもう買ったんでしょ?」
「うん、買った。だから神崎さんと、博と、私で合流して・・・」

神崎さんというのは、ブルーアセロラのドラム。
今日はヴォーカルの亜由美の誕生日なので、みんなでサプライズパーティをするのだ。
言い出しっぺは、博で

博は多分、亜由美のことが一番なのだ。
意識的ではなく、無意識だとしても。

私はそれを知っていた。わかっていて
でもどうしても博を好きで
博が付き合おうって、言ってくれたときは本当にうれしくて


だけど、
キスをしたから付き合ったのだ
私はずるいので、博がこっちにくるように
強く強く、その手をこちらへ寄せたのだ。


誰れよりも、大切だよ
一番、かなでさんが可愛い。

彼は、そんな恥ずかしくて死にそうなことを
いつもまじめな顔でいう。

だけど、私はその言葉を聞いて
圧倒的な幸せに浸りながら
一方で、圧倒的な空しさを覚える。


ねぇ、亜由美のこと好きでしょ?って、聞いてしまいたくなる。
でも私は絶対に、そんなことをしない。

そんなことをして、
博が亜由美のところへ行ってしまったら
きっと私は、悲しくて死んでしまう。
大げさな表現じゃない。

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