モラトリアムを抱きしめて
私たちはデパートに着くと下着売場に直行した。

気持ちは、遊園地のゲートを潜った時と同じ。

走りだしてしまいそうな自分と、走りだしてしまったはっちゃんを抑えながら歩いた。

楽しい。

そう言えば、久しく女の子と買い物なんてしていなかったな。

何を見ても「初美さん!初美さん!」と私の名前を呼ぶはっちゃん。

負けじと私もはっちゃんを呼んでいた。

――子どもが出来たら、日曜日には家族でデパートに行ってお買い物。

私はいつからかそんな夢を描いていた事を思い出した。

結婚してすぐの時は、本当にそんな事ばかり。

今では日々に追われるばかりで、すっかり忘れてしまっていた。


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