モラトリアムを抱きしめて
気のせいだといいのだけど。

やっぱり置いてくるべきではなかった。遠くにいるほど、はっちゃんが幼く感じる。


殆どを業者に任せてはいるけれど、私とおばちゃんは喪服に着替え、祭儀場で備えることにした。

任せていると言ってもする事は沢山あって、おばちゃんは次から次へと働いていた。

私はそれについていくのがやっとで、何をどうすればいいのかなんて、ちっともわからなかった。

これが私なのだ。

いくら人並みの服を着て、エレベーターの付いたマンションに住んで、美味しいものを食べていたって、知識も常識もない。

当たり前の感覚を私は知らない。

どんどん化けの皮が剥がされていくようで、情けなく、恥ずかしく、そして惨めだった。

この喪服だってそうだ。

本当に着る事になるとは思わなかったけれど。



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