モラトリアムを抱きしめて
公園に足を踏み入れると、地面から砂利と一緒に風が舞い上がる。

それに足元を持ち上げられながら、背中を押されるように公園の中央まできていた。

ザワザワと木々が鳴く。

――あの日、千円札を持ち出した時、すぐに兄に見つかった。

それでもそれを振り払い走って逃げて。

結局ここで捕まって。

何で殴られたかはわからない。痛みだって忘れてしまった。

自衛のためなのか、私はすぐに意識を失ったのだから。

それからの事はよく覚えていない。


私は、あの瞬間に沢山のものを無くした。



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