サグラダ・ファミリア
狐、飛行機にビビる


シンを欠いた一行は、
旅客機の中、思い思いに離陸を待っていた。
私の隣、
シンの空いたスペースがすぅすぅと寂しい。

狐は天井を睨みつけている。


シンを待ちたいと何度も言ったけど、
聞き入れてもらえなかった。
狐と坊主は、シンを置いて先に進むことにした。

この旅に、私の意志はまったく、
反映されないことがわかった。


シン不在で日本を発つ不安を紛らわそうと、
私は携帯を開いた。
「ん?」
見覚えのないメールが、返信済みになっている。

送信したメールを確認すると、

絵文字のチョイスだとか、
言葉の運び方だとか・・・確かに私のメール、
が、友達の元に、

運ばれた形跡。

けど、返した覚えがない。


「狐、」
「あ?」

「なんか、変なんだけど」

「・・・どした?」

狐は真剣な表情で、
顔を近づけて来た。


人外の虹彩と、
美しい茶の目。

じっと、私を見つめ、


つり目を大きく開き、
私に集中してくれた。

「・・・」

黙り込んでも、気を逸らさない。
まさか、こんなに注意して構ってくれるなんて、
思わなかった。

緊張して頬が熱い。


「打った・・・、
 覚えのないメールが・・・、
 送られてるの、
 友達に」
「メール?」
「・・・メール、
 記憶のない返信履歴が、
 あって、
 それで、
 変だなって」

呆れられるような気がして、
こんな小さな事を、報告するんじゃなかったと、
瞬時に後悔した。

けれど、狐は口をへの字にし、
困ったような顔をしただけで、
くだらない、と毒づきもせず言った。

「それは、
 俺にはどうにもできねぇな」

思いの他真摯な、狐の対応に、
私はほっとして、涙が出そうになった。


「ごめんな」

狐は恐らく、シンの件についても、
被せて、謝りの言葉を口にした。
< 19 / 202 >

この作品をシェア

pagetop