サグラダ・ファミリア
『ただいま、大変強い気流が発生しております。
 お客様には大変ご不便をお掛けいたしますが、
 機体が安定するまでの間、
 ご着席の上、シートベルトをお締め下さるよう、
 お願い申し上げます。
 また、客室乗務員からの避難指示があるまでは、
 決して避難具は取り出さないで下さい』

放送は早口で、厳しい口調だった。


こんな、空の上なんかで、死にたくない。



私の不安は最高潮に達していた。

狐を見ると、尻尾の毛を毟っていた。



何してんの?



『五本ずつぐらいでいいかな』
『十分でしょう』

狐の心の声と、ザビエルさんの心の声の会話が、
特に会話に参加していない私の頭にも、
響いて聞こえた。

『念のため七本ずつにしておいたらいかがでしょう』

別の人の声。

『俺の尻尾が禿げてもいいのか』
『我々坊主、全力で禿げを支持します』
『その冗談全然面白くねぇから』


ツイッターのようなノリに、わくわくして、
つい、

『ねえ何の話してるの?』

『イッタンモメン撃退作戦会議』


脳内音声に参加してみると、
狐が無言のまま、ニヤリとした。


『さっそく心の声仕えるようになったぜ、
 こいつ』
『さすがです』
『おめでとうございます』

泣き声さえ聞こえるうす暗い機内で、
緊張感の無いテレパシーが、
無言の集団の中で交わされているなど、
誰が想像できたろう。

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