月と太陽。
この高校に入ったのは間違いだった。
入学して半年。鈴木ナズナは、そう思っていた。

この高校は、クラスで仲のいい人がいないと…やっていけない感じだ。

ひとりでも平気なところがあるナズナは、明らかに浮いている。

昼食をとるにも、化粧室にいくにも…
どうして、ひとりじゃ行けないのだろう?

うわべだけの友達なんて、いらない。
本当の友達がほしい。

そう、考えていた。

入りたくて、この高校に入ったのではない…
第一志望校に落ちたからだ。

高校に馴染めなくても、三年間やり過ごそう。

どこの高校を卒業しようと、最終的に地方国立大の医学部に受かればそれでいいや…

そう思っていた。

学校内で、いちばん落ち着くのは美術室だ。

部活動なんて興味ないけど…
調査書のために、何か入ろうと思って…
拘束時間も短いと聞いていたし、あんまり疲れなさそうだという理由で美術部に決めた。

美術室に入り、紙袋から彫刻刀と木を出していると
ドアが開いて、部長の松野が入ってきた。

「鈴木さん、一番乗りだね」

「あ、三代目!お疲れ様です。」

「三代目って…まぁいいや。」

「あ、つい。」

地元では有名企業の、松野土建の跡取り息子。
実はナズナの親も勤めていたりする。

「先輩は、いつ頃まで部活を続けるんですか?」

「3年の秋。」

「受験大丈夫なんですか?」

「俺、頭いいし。なんて冗談。」

笑えなかった。
松野は学年で三番以下になったことがない。

会社を継ぐのに、工学部か経営学部どっちがいいか悩んだらしいが…
どっちにも行ける頭があるから、悩むのだ。

文系科目が駄目なナズナの場合、理系に進む以外に選択肢はない。

「なぁ、それさ。木彫りの人形? コンクールに出してみないか?」

「え?」

何だか面倒くさい…と思った。

けれど、要項だけは受け取っておいた。

この時、ナズナはまだ…
自分の高校生活がガラリと変わることなど…
想像すら、していなかった。

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