桜が散るその日
桜の下のバイオリン奏者
 桜が花を咲かせた。部屋から見える桜は、隣の屋敷のものだった。
 隣の屋敷の主は、望月家の病弱なお嬢様、奏(かなで)の専属の医者だ。桜田先生という彼は、実に穏やかな性格をしていて、外見からして優しい人だった。奏は彼を気に入っていた。
 昨日まで、蕾だったはずの桜が目を覚ました今日にはもういくつも花を咲かせていた。
 早く目を覚まして、その花が開く姿を見てみたかったなと、日が高くなってしまった今に起きた自分を少しだけ呪った。いくら昨日体調を崩していたからって、こんな時間に起きることはなかったな。きっと、母様は奏の体を案じて起こさなかったのだろう。
 桜から視線をずらし、奏は布団から怠そうに出る。眠りすぎたせいか体が重い。しかし、調子はとてもいい。
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