I LOVE YOUが聴きたくて
「そうなんだぁ」
綾は、魅麗の話に聞き入っていた。
魅麗は、怜(ユウ)の隣に、そっと、座る。
怜(ユウ)は、夢中に絵を描いている。
魅麗は、そんな我が子を、見守る様な優しい眼差しで見つめた。
「日本に帰ってきてから一ヶ月が過ぎようとしていた頃、この子が、私のお腹に宿っていることがわかったの」
「そっか。帰ってきてから」
「そう」
「不安だったよね?」
「う~ん…。嬉しい気持ちの方が大きかったわ」
「そうなんだぁ。魅麗さんは強いなぁ。愛する人は近くにいなくてさ、不安だったんじゃないかなぁって。でも、【母は強し】なんだね」
魅麗は、微笑んだ。
「あ、そうだ。ユウくんの名前、前は、レイくんだと思ってて」
「言ってたわね」
「うん。どうして、ユウなの?怜って、ユウとも読むの?」
魅麗は、微笑んで言った。
「ううん、読まないわ」
「?」
「当て字なの」
「当て字?」
「そう。【ユウ】っていう響が好きで、将来、子どもを産んだら、ユウって名前を付けたいと思ってたの。怜樹と出会って、【怜】っていう漢字も気に入ってね。だから、くっつけちゃった」
「そうだったんだぁ。他に無い名前だよね。いい名前」
「ありがとう。さぁ!最後の仕上げに取り掛かるわ」
「うん、頑張って」
「あ、そうだ。綾ちゃん、もし良かったら、もう少しいてね。夕飯食べていって」
「はい」
居心地の良い魅麗の家。高校生の綾が、親も公認で、唯一安心して居れる場所なので、綾は、安心してひとつ返事をした。
「よし!すぐに済ませるからね」
そう言って、魅麗は、置いてある看板をかかえて、外へ出た。
「あ!看板を付けるのね!」
綾は、取り付けるのを見たくて、魅麗の後を追った。
魅麗は、看板を片手に脚立を上がっていく。綾は、大丈夫?と尋ねようとしたが、魅麗の気が散ると危ないと思い、言葉を呑んだ。心配しながら見上げ、じっと見つめる。
魅麗は、まず、看板の片側をくくりつけると、脚立を降りてきた。そして、脚立を移動する。それから、もう片方を持ち上げくくりつけた。
「綾ちゃん、真っ直ぐになってる?」
魅麗は、脚立の上から尋ねた。
「うん、なってるよ」
綾は、返事をしながら魅麗を見上げて、両手で丸をした。
真新しい看板は、夕陽に照らされて光っていた。
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