片思いの続きは甘いささやき




新郎新婦がお色直しの後、キャンドルサービスをして。

宴も和やかに進んでいた。

喬のテーブルからは、透子が濠に何か囁かれて顔を真っ赤にしながら俯く姿が見える。
仕事では淡々と確実に。
感情の揺れを表に出さない彼女を見てきた喬には、そんな可愛い表情を引き出す事ができる濠を羨ましく思う。

自分の愛する女が、幸せな顔で寄り添う。

伝わる体温だけじゃなく心の揺れ全てを見せられる幸せ。

思ってもみなかった自分の欲している…望んでいる本音に戸惑わないわけではないけれど、すっぽりとはまったその本音が心地いい。

酔いがほどよくまわった機嫌のいい会社の同期達の意味のない話に相槌をうちながら、喬は部屋の中を何度か見回していた。

かなり広い部屋。
かなりの招待客。

なかなか探している顔を見つけられなくて、多少のいらいらが隠せない。
目の前に並ぶ料理にはあまり手をつけずに、視線は会場内をさ迷ったまま。

いない…?
まさかな。
今日の披露宴の担当だって言ってたし。

しばらく見ない雪美の姿を探す喬は、知らず知らず表情も歪んでいく。

「やあね。そんなに怖い顔してたらお祝いの席が台なしじゃない」

「あ?」

隣に座る悠里が呆れたように喬に声をかけた。

「今透子と真田さんにビール持って行って聞いてきてあげたわよ」

「…なにを?」

もったいぶった悠里の声にも視線は他に向ける喬に、再度ため息の悠里。

「あなたが探してる人の行方ですけど?」

敢えて低い単調な声音を作ると、眉を寄せて悠里は喬を睨んだ。

「一応、元彼女なんですけど。その私が別れた男が大事に想ってるに違いない女の行方を聞いてきてあげたって言ってるんです」

ふん…っ。

普段聞き慣れている強気な言い方だけれど。

意味を掴んだ途端、喬は体を悠里に向けて真剣に顔を寄せた。

「大事に想ってるって…誰の事だよ」

「あらかじめ言っておくけど、透子ではありませーん。彼女は今最愛の濠さんと金屏風の前で笑ってまーす」
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