農園の食卓
「今なんと?いや、そんなはずはない、開拓機はすべて回収されたはずですよ、だいいち起動炉がもたない」

驚いた。

150年がホラじゃぁないならまんざら嘘ではないことにはなるが、それでは処分することが出来ない。

廃棄法には開拓機の処分に触れた条項がないのだ。

ひとまず彼女を割ってみて、経年劣化から判断する。

いや、いったいこの寄木細工のようなガラクタの、何処から割るんだ?

割ったとして果たして元通りくみ上げられるのか?

僕はずいぶん長いこと、額にしわを寄せていたのだろう。

農園主が心配そうな顔で僕を覗き込んでいる。

「いやいや、いいんですわ、もう、うちらも楽にしてあげたいけんですね。しかし、なんでいつもあげな風に、なんかを待っちょるみたいに、遠くば見とりんしゃるんでしょうねぇ」

オイルと泥とで汚れてはいるが、確かに彼女の顔は汎用型には無い一点物に見えなくはない。

その顔が今は僕にも主にも視線を向けることはなく、どこか虚空を見続けている。

「とりあえず、今日は帰りましょうか?」主が言った。

「動かせるんですか?」

「こうすれば、何とか歩いてくれるんですわ」

主がゆっくりとミィ~ちゃんの背中を押した。

ミィ~ちゃんが主の方を向く。

時折バランスが崩れるが、彼女がゆっくりと動きだす。

外環モジュールは常に起動しているんだ・・・。

主と肩を並べてゆっくりと歩いてゆく。

長い影が二人に続く。

「あの、私は診療所のほうに行きます、記録を読ませていただきたいので」

「どうぞ~、こちらから連絡はしときますけん」

振り向くとバランスを崩すのだろう。

アンドロイドの肩にやさしく手を添えて背を向けたまま、主がそう答えた。
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