zinma Ⅲ

天命の天秤





ルシールは庭の花たちの世話をしていた。

火よけの帽子をかぶり、雑草を抜き、枯れた葉を取り除く。

花によっては、支え棒を脇に刺してやり、形を整える。


ルウも一生懸命草むしりをしてくれて、今年のこの季節も、良い花が咲きそうだ。


ルシールがしゃがみっぱなしの腰を伸ばそうと、立ち上がる。

手の甲で汗をふき、一息ついていると、宿からシギが出ていくのが見える。




いつもより少し雰囲気が違うような気がする。

いつも凛とした大人びた雰囲気なのに、いまはどことなくか弱いような、普通の16歳の少年に見える。



その後ろ姿を見つめていると、

「ねーさん!」

とルウが呼ぶので、はっとして振り向く。


ルウはいつになくにこにこと笑っていて、どこかおかしい。


「……なに?ルウ。」


と聞くと、ルウは突然、


「きゃー一!」


と叫び、はしゃいでまわる。

その突然の行動にルシールがびっくりしていると、


「姉さんったら、もぉ!
かわいいんだからあ!」


と言ってじゃれついてくる。

「ちょ、ちょっと!ルウ。
あんまり暴れないで。花が潰れちゃう。」

そうルシールが言うと、跳ね回るのを止める。

だがうずうずした様子で、

「それで?姉さんどうなの?」

と聞いてくる。


「どういうこと?」


とルシールが聞き返すと、

「どういうこと、じゃないよ!
シギさんのこと好きなのかって話!」

とルウが言うので、ルシールは思わず持っていた農具を取り落としそうになる。


「な、何言ってるの?」


かろうじてそう言うが、ルウはまだにやにやと笑いながら、

「んもぉ!素直じゃないなあ。
顔が真っ赤だよ?」

それにルシールは自分の顔を両手でおさえる。


「ふふ。花のことは私がやっておくから、シギさんのこと追いかけて!」


ルウはそう言って、ルシールが被っていた帽子をとる。


「え?でも……」

とルシールが言うが、ルウはルシールの背中を押して花畑から追い出すと、にこにこと笑って手を振った。


ルシールはそれに半ば気圧され、シギを追った。




< 57 / 364 >

この作品をシェア

pagetop