めあり、ほんとうのわたし
翌朝、ベッドのかたわらに立てかけている男の写真に、花と、水を供えた。

これが、めありの朝一番の日課だった。

「菜の花、出てたから買ってきちゃった。きれいでしょ?」

磨きぬかれた写真たての表面を優しくなでながら、写真の中の青年にそっと語りかける。 

いくら呼びかけても、その答える声は永久に失われてしまった。


自分が奪ってしまったのに・・・・・・語りかけてしまうのだ。 


つけっぱなしのラジオから、爽やかとは言いがたいニュースが聞こえてきた。

-・・・・・・殺害されたのは、指定暴力団桜命会幹部で、早田組組長、早田昭夫六十七歳と、同じく早田組の構成員、安田幸一さん二十五歳の二人です-

-どちらも、頭部と腹部に数発の銃弾を受け、発見されたときにはすでに死亡している状態でした。警視庁・・・署では、桜命会内部での抗争とみて、捜査を進めています-


内容を聞いためありは、ぼんやりとした女のカンのようなもので、犯人は自分と同じ、人を殺すことを生業としている人間だと思った。

「おんなし、人を殺すのでも、割り切れてる人もいるのね」

めありは同業者として、素直に感心をした。


(でも、やっぱりプロフェッショナルには・・・・・・なりたくないな)


花瓶に飾った菜の花の黄色は、めありの瞳にはまぶしいくらい明るさに映った。
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