『若恋』榊の恋【完】


「いいですね、温泉」

「ええ、静かなところでしたよ。料理も美味しかったし、十分に涼んできました」

さりげなくその場を通り過ぎようとして。


「榊さん」

声で引き止められて一也を見た。


「どうしました。一也」



「―――俺は」


言わなくてもその先に言いたいことなどわかっている。
今まで気づかない振りをしていただけだ。



「ひかるは渡しませんよ」


「―――っ、」



目を見開いた一也が言葉をなくしている。


「ひかるはわたしのものです。誰にも渡しません」



一也はじっとこっちを見てそれから諦めたように小さく笑った。


「気づいてたんですか?」


「少し前からですよ。気づきたくなかったと言う気持ちも強いですけどね」

「榊さんはひかるちゃんを」

「一也が想像してる通りですよ。ひかるはわたしのものです」


「、」


< 231 / 440 >

この作品をシェア

pagetop