『若恋』榊の恋【完】


「若に力で勝ってもダメなんです」



若には伝わるだろうか。


りおさんの視線の先はいつの頃からか若を向いていたことに。
本人同士が気づかないのに周りは気づいてしまうことに。



「今のがわたしの実力なんですよ若」

わたしは若には勝てない。



「榊さん、ケガしてる」

竹刀を若に返し、中庭を去ろうとしたらりおさんが持っていたハンカチを取り出した。

「ケガですか?」

「ほら、その腕が」


りおさんが指差して紅い筋を見る。

「ああ、このぐらい平気です」

なんでもない。
傷ひとつくらい痛みのうちに入らない。


スルリと抜けようとしたら、若に腕を取られた。



「りおが心配するから手当てしろ」

「奏さん、」


ふたりが並ぶのを見たら、自分の気づいたばかりの胸が痛んだ。


「若には敵いませんね」




深いため息が溢れた。





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