Before under
プロローグ
 闇。
 その空間を一言で表すのなら、その言葉が一番適しているだろう。
 一見するとただの大衆食堂にしか見えないその店のカウンター席には一人の老人と青年が座っている。二人のすぐ後ろの壁に飾られたダーツには矢が刺さっておらず、代わりに銀色のナイフが刺さっていた。
 店の扉には鍵がかけられ、ブラインドは全て降ろされている。外部とその空間を遮断しているかのようだ。
 横浜。
 この辺りは全国的に観光地として知られ、中華街や遊園地、大型ショッピングモールなどには連日多くの人が訪れる――――が、これはあくまでも表社会の話でしかない。
 殺しを生業とする殺し屋達にとってこの地は、血に塗れた裏社会の中心地でしかなかった。
 数年前、『行方不明者戸籍破棄法』という法律が施行された。五年以上行方の知れない者の戸籍を全て破棄し、存在そのものをなかったことにするという内容のものだ。
 確かに、この法律が施行されたことによって得られた利益は大きかった。見つかりそうにもない行方不明者を探す手間が省かれ、その分の時間を有効的に使うこともできた。
 だが、それと同時に犯罪者が増えてしまったのも事実だ。

< 1 / 3 >

この作品をシェア

pagetop