蝉時雨
*
あれからどれくらいの間
ぼーっとしていたんだろう。
「‥‥な?‥おい、菜々」
自分の名前を呼ぶ声に気づいて
はっと顔をあげる。
「‥‥‥京‥介」
「お前こんなとこで何してんの?」
その場を動かずに
ただ突っ立っているだけの私の顔を
京介が不思議そうに覗きこんだ。
「あ‥‥えっと、
涼ちゃんに会いにきた‥‥んだけど」
窮屈で仕方のない浴衣のまま
ここに来た目的は涼ちゃんに会うためだ。
だけど、今日は会えそうにない。
会いたいけど、 二人を目の前にしてちゃんと笑える自信はない 。