放課後は、秘密の時間…
急に怒ったり、いじわるしたり。

……かと思ったら、人なつっこい笑顔を見せたり。


市川君は、どんどんあたしの心の中に入ってきてる。

あたしの胸に、確かに存在し始めてる。


だけど、それを認めちゃいけない。

認めることなんか、許されない。


教師なのに。

大也が、いるのに……


浮かんでくるのは、大也の優しい笑顔。

だけどそれは、ふっと市川君の顔に変わった。


あたしをからかってるときに見せる、いじわるな笑顔。


「……市川君……」


手の中のメモをぎゅっと握って、あたしは首を振った。


市川君のことなんか、考えちゃいけない。

彼はただの生徒なんだから……


あたしはもう一度パソコンに向かった。


今は、残った仕事を片付けなきゃ……


美術室には、降り続く雨の音だけがただ静かに響いていた。



そして。

この時のあたしは、まだ知らなかったんだ。


あたしと市川君の関係に、気がついてる人がいたってことを――

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