ガラスのタンポポ#虹
今度は奏来が荷物をあさり、包みをオレに渡す。


“特別な物、思いつかなくて。つまらない物だけど、使ってもらえると嬉しいな”


包装紙から出てきた箱の中には、オレの好きなブランドの財布。


「1人で買いに行ったのか?」


“うん”


声が出なくなってから、奏来が1人で買い物に行く事なんてなかった。


街で人とぶつかっても「ごめんなさい」と言えない。


こんな風に物を買って「プレゼント用ですか?」と聞かれても、返事すらできない奏来は、家から出る時はいつだって誰かと一緒で。


あんなに1人で外を歩く事を嫌がっていた奏来が、オレのために1人で出掛け、買い物をした事が驚きでもあり、嬉しくもあった。


それは紛れもなく、オレのためだけに奏来がした事。


「奏来」


“?”


「ありがとう」


2人で笑い合ってキスをして。


手を繋いで夜を送った。
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