ガラスのタンポポ#虹
“翔ちゃん”


「うん」


“今まで、ありがとう”


「奏来…」


“サ・ヨ・ナ・ラ”


動く奏来の唇を封じた。


オレと奏来の最後の。


憂いのキス。


このキスを、奏来の涙の味を。


オレは一生忘れないだろう。


長い長いキスと、力いっぱいの抱擁。


「奏来、ありがとう」


そう言って二人で微笑み合った。


笑って終わりにした方がいい。


オレと重なる奏来の想い。


「じゃあ、な。奏来、先に帰れよ。オレはもう少しここで…。だから奏来は早く兄貴の所へ…」


声が震える。


言葉が詰まる。


オレは。


そっと奏来の背中を押した。


「1人で泣くなよ。兄貴の所で泣けよ?」


小さくなっていく奏来の背中を見ながらそう呟いて。


涙がこぼれないよう、オレは空を仰いだ。


だけど。


見えないんだよ。


どんなに目をこらしてもぼやけた目じゃ、空は見えない。


青いはずの空。


オレの目には。


もう何も写らない。
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