蜂蜜れもん

顔洗って髪を梳かして急いで食べて歯を磨いて、家を出る頃には長針が53分を指していた。55分には家を出ていないと間に合わない。
先に行った兄を目指して走った。結局兄には追い付かなかったが。

「西園ー!」

どこかで聞いたことのあるような無いような声が莉緒を呼ぶ。立ち止まって辺りをキョロキョロしても知っている人どころか人なんて見受けられない。
聞き間違いか、あるいは気のせいか。あまり気にすることなくその場から立ち去ろうとしたとき……

ガサガサッ――

「おはよ」
「きゃぁぁああああああ!!!!」

金髪の少年が木の上から降りてきた。

「た、高橋廉くん……おはよう」
「フルネーム……廉で良い」
「えと、廉くん」
「つか、何で一歩近寄るたび一歩下がんだよ」
「え、だって近寄るから」
「いや、だって学校そっちだし」

今朝の自分もこんな表情をしたのか……なんて思う莉緒。廉もニタァと口元を釣り上げて近寄ってくる。
「悪役に出てきそうな顔」そんなこと言ったら不味いだろうか、出かかった言葉を飲み込んだ。

「失礼なこと考えてただろ」
「滅相もございません」
「嘘吐け。悪役みてぇな顔って思ってただろ」

ギクっ――

あからさまに目が泳いでいる。サーッと顔が青ざめるところからして確実に“悪役みたい”とは思っていただろうと廉は確信した。
180cmある廉よりはるかに低い150cmの莉緒。瞬きすれば溢れるんじゃないかって思うほど目には涙が溜まっている。そんな莉緒を見てからかいたくなった廉は……

「いやぁぁぁああああああ!!!!」
「うぉ、ちょっ、早っ!」

右足をダンっと前に出した次の瞬間、拒否する言葉を叫びながら全力疾走する莉緒。
昨日の昼食からして、のんびりマイペースで間抜けだと思っていた廉は心の底から莉緒の速さに驚いた。
久しぶりに追いかけられる恐怖を味わう。酷い顔をしながら走っているんだろうと思いながらも学校まで止まらず走る。
校門を走り抜けたところで茶髪の男子生徒を見付けた。見覚えのある、男子生徒……
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