恋歌 〜secret love〜
思ったよりも近くにいた頼城先生を見て、顔がぼんっと熱くなる。



どうしよう……!


そう思って顔を床に向けた瞬間に、先生があたしの両頬を包んで顔を上に向かせた。



そのままぐいっと近づいてきた先生の顔を見て、顔がますます熱くなる。



え……これって!?



「頑張れよ。最後まで堂々と、今を楽しんで来い。それで、その後また、ここへ戻って来い」


「はい」



まっすぐに見つめられながらそう言われたあたしは、真っ赤になりながら頷いた。



ドラマみたいにここで抱き締められたり、キスされたりはしないんだ……



そんなことをぼーっと考えた頭を、思わず殴りたい衝動に駆られる。



「じゃ、行って来いよ。あと10分ちょっとじゃないか?」



手を離して姿勢を戻した先生を見て、慌てて体に力を入れる。



そっか! 急がなきゃ!



「先生、ありがとうございます! 最後まで楽しみますから、ちゃんと見ていて下さい。

それで、終わったらいろいろお話聞いて下さい。話したいことも聞きたいことも、たくさんあるんです!」


「あぁ、わかった。俺も、いろいろ聞きたいからな。もう、秘密にする必要なんてない」



にっこりと微笑む先生に、あたしは大きく頭を下げてから背を向けた。



人が全然いなくなった今なら、ここで走っても大丈夫!


だからたぶん、控室にも余裕で戻れる……はず。



邪魔するものなんて、何もないんだもん――――



「俺は、ここで待ってる!」



少し大きく張った頼城先生の声が、あたしの背中を押した。


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