《短編》切り取った世界
『…泣いてる美緒を見て、俺はとっさに“一生守ってやるから安心しろ!”って言ったんだ。
だから美緒は今も、それを引きずってる。』



“弘樹なんかあたしの気持ち、何も知らないくせに!!”


そんな遠い遠い昔から、俺の知らない兄貴と美緒だけの繋がりがあった。


最初からずっと、俺には入る余地なんてなかったんだ。




「…良かったじゃん。」


『…え?』


「良かったじゃん、って!
戸籍上は従兄妹でも結婚出来るんだし、血が繋がってないなら尚更だ!」


意志とは別に、笑いばかりが込み上げてきて。


馬鹿馬鹿しくて、嫌になった。



『…そーゆー問題じゃねぇよ。』


そう呟く兄貴の顔は、やっぱり酷く悲しげで。


重苦しいばかりの沈黙が流れる。



「…いい加減認めろよ…!
兄貴だって美緒が好きなんだろ?!
もぉ、認めりゃ良いじゃねぇか!」


『―――ッ!』


瞬間、兄貴は押し黙って。



『…違うんだ…。
違うんだ、弘樹…。』


“違うんだ”と兄貴は、まるで自分にでも言い聞かせるように何度も呟いて。


もぉ俺には、何がなんだかわかんなくて。


兄貴が美緒を大切にしてることくらい、気付いてたんだ。


弟の俺に向けるものとは、また別の優しさ。


俺は美緒を見つめるのと同じくらい、兄貴だって見つめてきたから。


きっと兄貴は、俺以上に美緒を愛してる、って。



「…もぉ、わけわかんねぇよ…!」


絞り出した俺に、兄貴は何も言わなかった。


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