《短編》切り取った世界
家に辿り着く頃には、本当に頭がフラフラとしてきた。


“嘘から出た真”とは、まさにこのことだろうか。


重い足取りで俺は、自分の家のドアを開ける。



―ガチャッ…

『あっ、弘樹!』


「美緒!
と、兄貴も居たのか。」


一瞬の期待は、その後ろに居た男の姿によって簡単に打ち砕かれてしまった。


机の上に何かを広げて見ていたのだろう二つの顔が、今はこちらに向けられている。



『今ね、タカちゃんが撮った写真見せてもらってたの!
凄いでしょ?会社のパンフレットに使われるんだって♪』


チラッと見たそれには、何てことはないうちの本社ビルが映っていて。


他にも、社長である親父の写真やなんかもある。


親のコネで取った仕事。


誰にだって撮れる、ただのパンフレットに使われるだけの写真。



「…こんなの、全然凄くねぇじゃん。」


俺の言葉に、瞬間、美緒は俺を睨みつけて。



『…何でそんなこと言うの?
弘樹になんか、タカちゃんの写真の良さなんかわかんないわよ!』


「―――ッ!」


瞬間、唇を噛み締めた。


俺は今、初めて兄貴の写真を見たのに。


美緒は、何度も見ているんだろうか?


それに、こんな写真が良いだって?


こんなことをするために兄貴はいつまで経ってもフラフラしてて、

その所為で俺ばっかりが我慢しなきゃいけないのか?


なのに誰も、兄貴を責めようとはしない。


両親や美緒でさえも、俺ばかりを責め立てるんだ。



「チッ!やってらんねぇよ!」


吐き捨て、マフラーを投げつけた。


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