キミ時間


いるけど、いるなんて言いたくない。

どうしよう。

どうしたらいいの。



「あ、あの、大地は…」

「葵?何やってんの?」


あ………。


電話を終えた大地が戻ってきてしまった。


ドクン、ドクン…


「だいち!!よかった、会えた」


「え、なに!?てか、さっきのメールどゆ意味だよ?」


さっきまでの楽しかった時間が消えていく気がした。


この人には、敵わない。

あたしは、たぶん。

この人みたいに、大地に近づけない。


きゅっ、と唇を噛み締めた。


「あたし、もう無理だよ。大地、今からきて?」

「え、いや…、それは、」


「あ、無理だよね。ごめん」


チラッ、とあたしを見る大地と目があった。

あたしにどうしろと?

まるで助けを求める目。


あたしに、なにを言わせたいの?




「大地…」


行かないで。


「大丈夫?」


あたしのところに来て。


「なんか、葵ちゃん、大変そうだね」


お願いだから…


「行ってくれば?」




行かないでください。





あたしは、その一言が言えなかった。


幼馴染みとして接してきた、あたし。


女の子として接してきた、彼女。


あたしには越えられない壁を、彼女は意図も簡単に越えてしまう。




その後の、イタリアの味も、あんなに嫌いなホラー映画の内容もあんまり覚えてない。


ただ隣にいない彼の個とばかり考えていた…。










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