宵の花-宗久シリーズ小咄-
「あなたは、どちらからいらしたのですか?」



落ち着きを取り戻した彼女を見つめ、僕は問い掛けた。





彼女は、水分を含んだ、ぽってりとした朱い唇で語る。




「わたくしは、三丁目の梅屋敷から参りました」









梅屋敷とは、通称だ。


庭に十本もの梅の木がある事から、そう呼ばれている。




あそこの主人と母は、昔からの友人だ。



ならば、彼女がそこから来たのも納得できる。







「宗久様の母君が、梅屋敷にいらしたのです。お彼岸も近いとの事で、わたくしをお求めになりまして」

「僕の名を、ご存知なのですか?」

「勿論でございます。父君の名も、承知致しております」






父の名も?






何か、特殊なネットワークが働いているのだろうか。






眉をひそめる僕に、彼女はやんわりと笑いかけてくる。





少し、あどけなさが残るその笑顔に、微かに初秋の気配を感じた。





彼岸が近いとの、彼女の言葉。





もう、そんな季節なのだな。






ぼんやりと、僕は思った。






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