扉を開けて
エピローグ

その後はぼんやりとしか覚えていない
夏休みの最終日まで何かがぽっかりと抜け落ちてしまったかのようだった

僕は今、電話に向かっていた
今まで一度もかけたことのない番号にかけようとしている
無意味に心臓が早まる
今まで使った事もなかったクラスの連絡網なんて物を片手に持ち、番号を確かめる

一度深く息を吸って、受話器を耳に当てた
数回のコールの後、今まで聞いたことのない声に答え、少々待っていると本命の声が聞こえた

「…もしもし、ええと、誉君?」

半信半疑といった声が聞こえてきた

「そうだよ。」

「本当に誉君だ…。え、どうしたの?私に電話なんて…頭打ったの?」

彼女は僕にどんなイメージを持っているのだろうか
そう、僕が今電話をかけているのは、毎朝のように家に来ていた委員長だ

「…ちょっと、頼みがある。いいかな?」

うんと答える委員長の声を聞いて、すぐに羞恥が襲ってきた
今すぐ受話器を置いてしまいたい
その衝動を抑え、そっと言葉を紡いだ

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