好きな人は、
あたしは何を求めていたんだろう、何が不満だったんだろう。
彼の愛情表現の薄さなんて、わかってたじゃん。
それに、奏は会いに来てくれた。
夜遅くだけど、一ヶ月ぶりだったけど。堅苦しいスーツのまま、きてくれたじゃない。
そして、いつも通りの態度で接してくれた。
3日後だって、来てくれた。
本当、あたしは何が不満だったの。
何が欲しかったの。
欲しがる前に、奏にあげるべきだったもの沢山あるじゃない。
部屋を片付ける暇も、洗濯をする暇も、自炊する暇もちゃんと睡眠をとる暇も無く、毎日毎日はたらく彼に、何で「頑張って」の一言も言えなかったの。
安い安い、バランスの悪い食事しかしてない彼に、おいしい料理を作ってあげることも出来なかったじゃない。
寒くて擦り合わせる彼の手を、暖めてあげることも出来なかったじゃない。
なんで、なんで気付いてあげられなかったんだろう。
分かって欲しいの一点張りで
彼の心や環境を分からなかったのは……分かろうとしなかったのは、あたしじゃないか。
光る指輪は、彼が一生懸命働いて、自分の食費を抑えて買ったもの。
それをゴミの中に投げ入れた奏の気持ち………
あたし、ほんとに大バカ者だ。
何をあんなに怯えてたんだろう。
何から逃げていたんだろう。
前を、愛する人を見れない自分。
本当に逃げなきゃいけないのは、それじゃないか。
「……そ…う…………っ」