天使の羽根

「今、誰か落ちませんでしたかっ? 遠くから影が見えて、叫び声も! 警察に連絡をっ!」

 慌てふためく男の肩を、傘を差した人物は掴み止めた。

「いえ、誰も落ちてませんよ……勘違いじゃないですか?」

「え、でも、確かに……」

「ここにずっといました、誰もいませんでした」

「……そうなんですか?」

 その返事を聞きざまに、踵を返した人物は、足取りも緩やかにその場を去っていった。

 やがて雨はやみ雲が切れていく。

 大きな顔を出した満月は、何事もなかったかのように橋を照らした。
 





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