希望という名のきみへ
選択


次第に目が闇に慣れ、ここが沢山の木々に囲まれた場所だとわかる。

森だ。

永遠に手を引かれ、何処を目指しているのかもわからず、わたしは必死に走った。

ミテラでは筋力トレーニングを日課としてはいたが、こんな風に全力で走ることなどありえなかった。

限られたミテラの空間の中で、生きていく為の最低限の筋力を維持するだけ。

走る大地も、泳ぐ川も海も、登る山もわたし達にはなかったのだから。

わたしの息はあがり、意識も遠のくほどに疲労していた。


と、永遠が急に足を緩めた。行く手が阻まれたのだ。

目の前に広がる大きな水の流れ。

川だ。


「トワ、わたしは泳げない」


始めて間近に見る水の流れに、わたしは恐れさえ抱いていた。


地表に降り注いだ放射能は全て海に帰る。

テラの海は放射能に汚染されていた。

だから残留放射能を恐れ人工再生水を使用していたミテラでは、水は貴重だった。

飲み水が最優先。

グラスに注がれた生命維持に不可欠な必要最低限の液体。

それがわたしにとっての水の認識だ。

勢い流れる水の様子に圧倒された。


「心配するな。泳げとは言わぬ。登るのだ」


永遠の見上げた先には、滝があった。
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