えみだま

番外と枕元

部屋に入る前に、まず鍵を開ける。当たり前だけど、そうしないと部屋に入れない。

静かに部屋の扉を開けると、壁や天井が真っ白な部屋。

薬品などの匂いがする。でも、この匂いにはもう慣れてる。

「こんにちは」

返事はない。ただの保健室のようだ。

むしろ、たった今、鍵を開けたばっかりの部屋に誰かいても怖い。

私は、スクールバッグをテーブルの上に、なるべく丁寧に置いた。

「………」

よく見ると、ベッドのところはカーテンが広げられている。

いつもは小さくなってるはずなのに。

誰かが使って、そのままだったのかな。

「………」

そ~っと、カーテンを捲ってベッドを見る。

「ごめんなさいっ」

急いでベッドから目を逸らした。

「あ、うん平気。俺こそゴメン。勝手にベッド使った」

私って、何てタイミングの悪い子なんだろう。

…あれ?

「岩田…くん?」

「紅祐で良いよ」

「上の名前でいいです」

「え~」

同じクラスの人みたい。

岩田くんはまだカーテンの向こう。

「何でここに?」

「窓開いてた」

誰か戸締まりし忘れたのかな。

「ゆきこそ、どうしてここに?」

「上の名前でいいです」

「ゆ~き~」

「聞いてます?」

「俺の質問答えて」

調子狂うなぁ、もう。

「保健委員も夏休みに呼ばれるんですっ」

「保健委員ってことは、ひなたも?」

「天音さんも来ると思います」

「へ~」

岩田くんは何かを考え始めたみたい。

「あと何分ぐらいで集合?」

「1時間ぐらいです」

「ゆき、早いね」

「上の名前でいいです」

「律儀なツッコミするね、ゆき」

しつこいなぁ。

「上の名前でいいです」

もう、適当に流そう。

「ゆき、面白い」

「上の名前でいいです」

「ゆき、可愛い」

「上の名前で…ひぇ?」

思わず声が裏返した。

「あはは、ゆき可愛い~」

だ、だだだだって、可愛いなんて。

「可愛いなんて、言われたこと…ひゃっ」
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