真昼の月
日差しがまぶしい。遮光カーテンが開けっ放しになっている。
ドアチャイムが遠い場所から響いてくる。

遠くから歩いてくる人の足音が近づいてくるみたいに音が次第に大きくなってくる。
携帯もなりだしてあたしは目を覚まさないわけにはいかなくなった。

携帯に出ると「聖羅ちゃん、起きて。迎えに来たのよ」と真理子さんのかなりあせった声が響いてきた。

「はい……」低い声で返事をする。朝は声帯もうまく反応しない。
また、ベッドに入らないでそのまま床に転がっていたので起き上がるのが辛い。
だるくて痺れるからだを持ち上げて、あたしはドアをあけた。

「嘘!」しわがれた声で思わず叫んだ。そこにいたのは真理子さんだけではなかった。
1年近く顔をあわせることがなかった父親が並んで佇んでいたのだ。
あたしは絶句した。

……真理子さんの嘘つき。父は呼ばないって言ったくせに、どうして一緒にいるの? ……あなたを信じたあたしが悪かったわ。少しくらい親切にしてもらったからってあなたのことを信じたあたしが馬鹿だった
……誰に逢いたくないって、父には一番逢いたくなかった。
ただでさえ親がかりで情けない思いをしているって言うのに、これ以上みっともないあたしを見られて情けないやつだと思われて、また怒鳴られるの……会社辞めた時だって、
顧客のコネで入れてもらえたのに、恥ずかしいことをしやがってって
散々ののしられたのに……父はあなたと一緒にいてもちっとも変わっていない。

あたしは三行半突きつけられた女の娘だってことだけで疎まれて
憎まれて恥知らずだと思われているんだよ……
あなたの前の父と、あたしの中の父は全然違うの。あなたには優しいかもしれないけど、あたしと別れた母親に対してはひどかった。
そういうことあなたは何一つ知らないでしょう?聞かされていないはずだから。
父は自分を気に入っている人の前では物凄い善人になる……

あたしの中で記憶が散弾銃みたいにはじける。
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