はつこい・いちご【短編】
2 雨粒
「それはね、恋だよ」

「でもさ、こんな恋ってアリ?」


夏休みに入り、文化祭の準備をしている私たちは、

休憩も含めてお昼を取っていた。


こんなときに話す内容なんてのは、大体決まっていて……。


これまで、私は人の恋バナを聞くだけの立場だった。


それでもアドバイスなんて出来ないし、
ホントにただ、聞いてるだけ。


これからは私も仲間入り…出来るのかな…??



「でも、結局夏休み入っちゃって、
今日まで、一度も見かけなかったんだよ」


私が不満を言うと、エリは笑って、


「だって、穂純(ホズミ)さ、その人の顔しか知らないんでしょ?」


「うん…」

「何で他のクラスに行って、こっそり探してみたりしなかったの?」


そんな…エリは真顔で言うけど…


「それって、ストーカーみたいじゃありません?」

横にいたレイが冷静にツッコミを入れる。


実は私もそう思ってた。

エリは気に入らないらしく、
ほっぺをふくらましながらジュースを飲む。

「それに、学年違うかもだし…。
さすがに、2年や3年の教室にはいけないじゃない?」


私がパンを両手に持ってそう言うと、
二人は黙った。


「……」
「ん…」


ホラ、ね。


「やっぱり、現実的じゃないんだよ。
こんなの、恋じゃない」


そう。
学年どころか、名前も分からない。


きみは誰なんだろう。


そして、そんなきみに私が抱く想いって、

一体、何なのだろう。


「でもさ…気になってるんでしょ」

エリが言う。
その目は、私の方を向いてはいない。

斜め上の方を、ボーっと見ている。



「そりゃ…もちろん……」



私もうつむいて、
小さく、ホントに小さく、
ささやくようにそう答えた。
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