夏の日の終わりに
序章編

プロローグ

 低い山々と田んぼの間を走る片田舎の県道。

 自然を楽しむほど風景が良い訳でもない、なんの変哲もない緩やかなカーブが続く道だ。

 トラックや商業車がポツポツと走っている。その中にあって僕は一際甲高い排気音を響かせ、気違いじみたスピードでバイクを走らせていた。

 夏休みが終わり二学期が始まったいま、また死んだような生活に戻ったことに苛立ちがつのる。

 毎朝、駅から学校への道のりがどうにも我慢ならない。

 揃って同じ方向を向き、同じ制服を連ねてぞろぞろと歩く集団。その中に紛れこんで歩いていると、僕と言う存在がなくなってしまうような気がして、苛立ちはさらに増した。


──平凡な人間にはなりたくない。


 そんな想いが常に頭にある。そのイライラを置き去りにしたくてさらにアクセルを開けると、時速は120キロを超えた。

 前方に車が見えると、まるで止まっているかのようにその距離が縮まってゆく。対向車がいないことを確認すると、一瞬で排気煙とともに後方に消し去った。

 夏の名残を残した道路に漂う逃げ水さえ、真一文字に切り裂きそうな勢いだ。


「お前、いつか死ぬよ」
「ついて行けん」

 そんなバイク仲間たちの声を常に聞く。聞いてはいるが、僕にとってはむしろ賛辞に聞こえた。そう、誰も僕と張り合えるだけの腕は持っていないと思っている。

 もちろん素人レベルでの話だが、峠を走り回る中でも未だにライバルの後塵を拝したことはない。

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