夏の日の終わりに
 僕はハンドルに伏せて大きなため息をつくと、仕方なく家路に向かう裏道に方向転換した。

(どうせ間に合わないんだったら……)

 今頃ひとりで盛り上げるのに必死だろう。少し友人に悪い気がした。



 家にたどり着くと、車庫に入れるのも面倒で玄関前に車を停める。何だか体が疲れきっているようで、降りるのでさえおっくうに感じる。そんな重い足取りで玄関のドアを開けると、母親が血相を変えて飛び出してきた。

「あ、ただいま」

「ただいまじゃないよ、あんた今までどこに居たの!」

 その口調はとても尋常なものとは思われない。僕はひとつの可能性を頭に思い浮かべた。

(まさか……)

 一瞬にして全身が冷え切った。

「え……どこって……」

「病院から電話があったよ。理子ちゃんがチアノーゼを起こして危篤だって!」

 聞いた瞬間、僕はきびすを返す。その先は聞く必要もなかった。

「おい、脩!」

 その僕を呼び止めたのは兄だった。

「これを使え」

 母親の後ろから銀色の小さなものが飛んでくる。受け取ったそれはバイクのキーだった。これならば時間を半分は短縮できる。

「サンキュ」



 受け取るなり二年振りのバイクにまたがると、久しぶりの感慨に浸る間もなくアクセルを全開に開け放っていた。
< 145 / 156 >

この作品をシェア

pagetop