夏の日の終わりに
 僕はハンドルに何度も手を叩きつけ、悲しみと悔しさをぶつけた。


(こんな……)



 こんな悲しみがあるなんて、僕は今まで思ってもみなかった。


『7月14日

 脩君が、病気が治ったら沖縄でも北海道でも連れて行ってくれるって言ってくれた。すっごく嬉しい!

 もう死ぬことなんて考えない。絶対治してやるぞー! 生きる希望がわいてきたよ。脩君ありがと』


 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、それでも僕はずっと車の中で泣き続けていた。



 翌日、出棺前の理子の横には例の写真が添えられていた。意識が無くなる直前、理子がおばちゃんに最後に頼んだ言葉だったそうだ。つまりはそれが理子の最後の願いだったことになる。

 それを聞いてあの日の理子の言葉を思い出し、あの言葉にそんな重い意味が込められていたことを知った──




 いま理子は煙になって天に昇っている。僕はそれを眺めながらすべてが終わったのだと実感していた。



 残暑はまだ真夏と変わりない日差しを浴びせている。背中を伝う汗が流れては落ちた。


(ホントに、さよならなんだな──)





 遠い昔にひとりの少年はひとりの少女に恋をしました。


 でもその少女は短い命を散らせました。



 そして二人の物語は、はかない終焉を迎えました──





 夏の日の終わりに。







 ──完──
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